ジゴワットレポート

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感想『劇場版 名探偵コナン 紺青の拳』 精神面で勝利できない京極さんへの遺憾の意

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今年もやってきました、劇場版コナンの季節。ここ数年は毎年映画館で新作を鑑賞しているが、今年も満員御礼。老若男女、まあ見事に入っている。流石である。そしてどうやら、シリーズ最高の滑り出しを見せているようで、新元号・令和に向けて快挙が期待されるとある。

 

 アニメ映画「名探偵コナン 紺青の拳(フィスト)」が、公開初週末(13~14日)で観客動員114万4539人、興行収入14億6382万7700円を記録した。テレビアニメの映画化作品として初の興収100億円突破も現実味を帯びてきた。

 昨年の「ゼロの執行人」が過去最高の91億8000万円を記録。今回は12日の初日も合わせれば145万8263人、18億8629万2700円というシリーズ最高のスタート。前年との対比で112・9%という驚異的な出足だ。稼ぎ時となるゴールデンウイークが10連休になることから100億超えの可能性も高く、そうなれば「令和」になって初の快挙が見えてくる。

「名探偵コナン 紺青の拳」、テレビアニメの映画化作品初の興収100億円突破も?|ニフティニュース

 

劇場版 『名探偵コナン 紺青の拳』オリジナル・サウンドトラック

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ただ、私の率直な感想として、本作をあまり楽しむことはできなかった。雑に形容してしまえば、「二兎を追う者は~」といった印象。

 

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シリーズ屈指の人気キャラ・怪盗キッドと、劇場作品で初めてメインに据えられた京極真。このふたりを並べているのだから、そりゃあ、面白いのだ。しっかり面白いし、キャラクターの魅力は炸裂するし、恒例の「んな馬鹿な」と言ったら負けの大迫力アクションも披露される。「らぁぁぁん!」もちゃんとあるし、そんな新一と蘭の関係性にもフォーカスしているし、シンガポール政府観光局全面協力の絵の美しさは眼福であった。

 

しかし、どうにも、映画全体の作りとしては散漫な印象に傾いてしまった。原作では、いつものごとく宝石を狙うキッドと、最強の防犯システムとして登場した京極真が、バチバチに火花を散らす回がある。本作公開に向けて、直前にアニメでも放送されたエピソードだ。つまりこのふたりには、鈴木園子を巡る奇妙な三角関係(「私を取り合わないで」の図式)と、マジックvs空手という異種格闘技の旨味が与えられているのである。

 

当然、そのエピソードを土台に劇場作品として拡大していくのだから、両者の争いや、疑似的に園子を取り合うような、そんな構造を期待してしまう。そこにコナンが絡むことで、マジック・空手・推理、という特大スケールでの異種格闘技が観られるのではないか。そう思って鑑賞に臨んだ。

 

もちろん、これらの要素はちゃんと配置されている。疑似三角関係も、異種格闘技も、目配せの効いたシーンが連続する。しかしどうだろう、それらは各シーンで「にやにや」を喚起させながら猛威を奮うも、作品全体の「うねり」として集合していかない。このシーン、良いね。あ、これは観たかったやつだ。そんな感情が無数に押し寄せるものの、それぞれに妙に独立感があり、中々盛り上がらない。そしてそのまま、映画は終わってしまった。俗に言う「消化不良」というやつである。

 

思うに、例えば「キッドが思いのほか苦戦するシーンをやりたい」、例えば「京極さんが落ち込んだ状態から一気に立ち直って大活躍するシーンを観せたい」、そういった目的が配置されているものの、それをやるための前段や前振りがどうにもチクハグ(もしくは説得力不足)に感じられてしまったため、前述の「二兎を追う者は~」という感想に行き着いてしまったのかもしれない。

 

以下、本編の内容に触れつつ詳細な感想を書きたい。

 

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一番引っかかったのは、京極さんとレオン・ローの一連の流れだ。背景にある諸々はともかく、まずもって、レオン・ローにあんなふうに言われただけで彼はああも揺さぶられるだろうか。京極さんって、そんなに脆いキャラクターだったか。演出はまるで洗脳のようだったけど、いくら犯罪心理学者という設定でも、あの程度の「語り」で思い悩む京極さんは観たくなかった、というのが本音である。

 

「自らの強さが近しい人を傷つけてしまう」という命題はよくあるパターンだけど、本作で園子に絡んでくる輩は別に京極さんに対抗しようとしていた訳ではなく、単に園子と揉めただけである。これが、①京極さんにイチャモンをつける輩が現れる→②その争いに一緒にいた園子が巻き込まれる、という流れなら理解ができる。しかし本編は、①園子に絡む輩が登場→②一緒にいた京極さんが園子を守るために格闘、という構造だ。これでは、「自らの強さが近しい人を傷つけてしまう」という揺さぶりに全く説得力が感じられない。むしろ逆である。よって、その程度のそれっぽい「語り」に拳を鈍くしてしまう京極さんに、「え?」となってしまうのだ。「いやいや、京極さん、あなた、むしろ自らの強さを然るべきタイミングで発揮できてるじゃん」、と。

 

加えてミサンガである。拳を使わない誓いを込めたミサンガを、レオン・ローの言いなりで腕にはめる京極さん。それを、最後の一枚のトランプ弾でキッドがちぎる。本来ライバルである京極さんを、キッドが利用する。「最強の防犯システム」を、最高のタイミングで発動させる、疑似三角関係の到達点だ。分かる。キッドが京極さんの力を信じて利用する、そのほんのちょっとの呉越同舟に燃えさせたいのは分かる。いや実際ちょっと燃えた。良かった。しかし、しかし・・・。

 

そもそも、京極さん、精神面でレオン・ローに大敗しているのである。揺さぶりをかけられ、ご丁寧に言われるがままにミサンガをはめ、それがちぎられるまで園子がピンチでも本領を発揮しない。いいように、レオン・ローの策にハマってしまい、(結果的にキッドがそれを利用したものの)、彼はレオン・ローに全く一矢報いてないのだ。律儀に、ミサンガがちぎれるまで全力で戦わない。それは、彼の精神的敗北に他ならない。

 

だから、どうにもスカッとしない。カタルシスが足りない。観たかったのは「京極真」であって、「最強の空手家」ではない。いくらド派手にアクションを披露しようとも、彼がレオン・ローのしょっぱい策に最後まで踊らされてしまった事実は依然としてそこにあるのだ。

 

例えば、京極さんが、自らミサンガをちぎり捨ててまで園子のために戦う決意をする。例えば、「この強さは園子さんを守るためにある!もし傷つけてしまうのなら、その何倍も守る!」と豪語する。こっちの路線の、精神面での「強さ」が観たかった。要は今回の京極さんの悩みは、『剣を握らなければ、おまえを守れない。剣を握ったままでは、おまえを抱き締められない』なのだ。このパターンなのに、肝心の「剣」を敵のいいように封じ込められ、呉越同舟のライバルのGOサインでやっとそれを鞘から抜く。

 

違うでしょ、京極さん。あなたがこの悩みに打ち勝つならば、それはイコール、レオン・ローの企てを乗り越えないといけなかったのではないか。ド派手にアクションを披露して、園子と絆創膏のくだりでイチャついて、ハッピーエンドっぽくなってるけども。でも、あなたは、精神的には全然打ち勝ってないのではないか。目の前の敵を倒したことを、それに置き換えてしまっているだけではないか。私には、そう思えてならないのだ。

 

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すると芋づる式に、やはり「見せ場優先」の引っ掛かりが膨らんでいく。京極さんを「アゲる」ために「下げる」。私がどうにも好まない、「下げるための下げ」である。そして、キッドが珍しく血を吐いて苦戦するシーンをやるものの、それを覆すほどの大活躍シーンは用意されていない。クライマックスの彼の活躍は、むしろサポート役である。映画の大半で損な役回りが多かったのに、それをフォローする活躍には物足りない。そんなこんなが積み重なっていくので、私にとっては「うねり」に集合していかない、という印象になってしまったのである。

 

もちろん、映画でしかできないロケーションや、登場人物に満遍なく見せ場を作るクライマックスの構成など、見所は沢山あった。映像も相変わらずクオリティが高いし、キッドとコナンが(演出的に)ワープしながら推理を披露するシーンなど、前のめりに観たシーンも少なくなかった。

 

しかしやはり全体として、「人気キャラの見せ場」を優先して組み立てたであろう弊害(散漫さ、説得力不足)が目立ってしまい、遺憾の意が残る感想となってしまった。あれもやりたい、これもやりたい。そのためには、こういった「下げ」やああいった「下げ」が必要だ、と。この方法論でいくならば、昨年『ゼロの執行人』の方がまだ割り切って確信犯的(誤用)な作りだったなあ、と。むしろこれなら昨年に倣って、もっといやらしいくらいに「人気キャラの見せ場」に全振りしても良かったのだろうか・・・。

 

そろそろ、ゲストキャラ路線を一旦お休みし、コナンの推理を何よりもメインに据えた劇場版も観たいところである。

 

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