ジゴワットレポート

映画とか、特撮とか、その時思ったこととか。

仲人Tさんの著書『夢を見続けておわる人(以下略)』を読んだ感想。テキストサイト芸風は書籍版でも健在

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彗星のように現れ、そのハイテンションのまま話題性までもを勝ち取っていった仲人Tさん『結婚物語。ブログ』のメイン執筆者)。はてなブックマーク界隈でも、昨今は記事が更新される度に高頻度でホットエントリーに浮上。TwitterでもリンクがよくTLに回ってくる。私も何度も読んでいて、声を上げて笑ってしまったことも少なくない。

 

そんな人気ブログが破竹の勢いで書籍化とのことで、気づいた時には予約を終えていた。

 

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し、しかし、このタイトルは・・・!『夢を見続けておわる人、妥協を余儀なくされる人、「最高の相手」を手に入れる人。 “私"がプロポーズされない5つの理由』。な、な、長い!!ネットで仲人Tさんの文章を読んだことがある人なら、このタイトルから受ける印象と実際の中身に距離感を覚えることだろう。私もそのひとりで、「え、この路線で本を出しちゃうの? それって絶妙に『ズレて』ない?」となったのが本音である。

 

これでもし、中身もゆるふわスピリチュアルに調整されていたらどうしようと危惧したものの、それは杞憂であった。所々の過激な表現はさすがに削られているものの、文体とテンションは完全にブログのまま。何度も読んだ記事も再録されているが、展開を知っているのにフフっと声を漏らしてしまう。

 

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仲人Tさんの文章の魅力とは何か。

 

それは、オタクであるご自身が生きたであろうテキストサイト時代の芸風を汲んでおり、ともすれば死屍累々のジェンダー地雷原を全力疾走していくその走りのフォームにある。コーナーで差をつけろ!そして、あれよあれよと最後まで読まされてしまう軽妙なテンポ感。随所に配置されたオタクネタや漫画・アニメのパロディが緩急を生み、誰もが薄々気づいている恋愛や婚活における残酷な真実が実践的なテクニックとして披露されていく。

 

だからこそ、恋愛や婚活に取り組んでいない人でも、純然たる「クオリティの高いエンタメテキスト」として楽しむことができる。

 

「オタクはとにかく前提条件で語りたがる」とは私の持論だが、仲人Tさんもこの前提条件を巧みに使いこなしている。それは、「婚活で結果を出すためには」という文句だ。これを取っ払ってしまうと、やれ服の色は白だとか、ブランド物は持っていないふりをしろだとか、趣味にショッピングを書くな等々、昨今のネットにおいてはガソリンを被って火の鳥とベッドインするようなワードが無数に並んでいる。

 

しかし、「婚活で結果を出すためには」、服の色は白の方が写真写りが良いし、ブランド物やショッピングとは縁遠いことにしておいた方が男性ウケは良いのだろう。そういった、ヒヤヒヤする地雷原を、前提条件を巧みに出したり引っ込めたりしながら物凄い勢いで駆け抜けていく。自らの商品価値をいかに高め、相手の需要をどのように汲み取るのか。テンションに任せて書いているようで、おそらく、かなり丁寧に校正を重ね、慎重に言葉を選び、読み手の反応を意識して書いているのだろう。そういう、「技巧的に感情的な文章を書く」テクニックに、とにかく長けていらっしゃる。

 

だからこそ、何度読んでも実に面白い。本書に収録されているエピソードで挙げると、リヴァイ兵長似の男性に恋した女性のエピソードはとにかくドラマチックだし、娘の幸せを願えない毒親のマインドコントロールに苦しむ話は手に汗を握ってしまう。他にも、定番の「デートでは奢りか・割り勘か」論や、高望みすぎて希望の異性と会えない事例(具体的な希望相手の年齢試算法まで載っているのが面白い)、プロポーズを渋る相手を急かしたエピソードなど、「アラサー既婚男性」という本来の読者層から最も離れているであろう私でも「うんうん」と頷きながら読んでしまう。

 

ただこれはもしかしたら、そういったテキストサイト時代の芸風を色濃く汲んでいるからこその、「ネット特化型」の文章と言えるのかもしれない。書籍化に伴って、過激な表現は控えめになっているし、お得意の歌詞パロ芸も封印気味である(これには、元のAmebaブログは自由に歌詞を載せることができる、という背景がある)。ページをめくる感覚や速度も、やはり親指一本やマウスでガシガシとスクロールできる方が文体のテンションに合っているだろう。書籍にすることで、総合的な攻撃力がやや落ちてしまった感は否めない。深夜バラエティがゴールデンに進出した時の、若干寂しいあの感覚だ。

 

しかし、だからこそ、これはマーケティングの話として、「ネット特化型」かもしれない文章をそれ以外の層にもアプローチする必要があるのだろう。その結果として、このようなタイトルと表紙になったのかな、と察するのだ。

 

ゆるふわスピリチュアルな婚活本を手に取ったら、テキストサイト芸風の拳で延々と突かれ続ける。しかも中身はかなり具体的な婚活テクニックが満載。そのギャップによる効果を狙ったマーケティングなのかもしれない。個人的にはやはり、もっとネット文化に寄せた形での書籍化も見てみたかったけれど(それこそ文章も横書きのままで構わないのでは)、こればかりはビジネスが絡むことなので、なんともである。

 

元のブログの読者の方にお伝えしておきたいのは、前述のように若干のマイルド調整がかかっているものの、仲人Tさん特有のツッコミ・勢い・底に流れるロジカルな「詰め」は、書籍版でも健在である、ということだ。

 

少し前に元ブログを批判する内容の増田がブクマを集めたが、そのカウンターとしてアップされた仲人Tさんの記事を読んだだろうか。局地ネット文化的な意味で、あそこまで満点を叩き出す「批判への対応記事」はそうそうない。相手を叩き潰すのではなく、フォローしつつかわしつつ、追加のファンを獲得する、絶妙に配慮された対応記事。そんな代物を錬成することができる方なので、そのクレバーな判断は、書籍化に伴うマイルド調整においてもしっかり生きているのである。中身まで全部がゆるふわスピリチュアルになっている訳ではない。ちゃんと、旨味の部分は旨味のままだ。

 

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しかし、ひとつだけとても残念な点がある。元ブログから収録されているある記事のオチが、書籍版では完全に削除されているのだ。ここの有無が内容において大きな意味を持っていたと思うので、ここは是非にも、元のまま収録してほしかった。個人的にも、かなりお気に入りのキレッキレなエピソードだったので・・・。まあ、オチの内容が内容だけに様々な思惑が交差した結果だとは思うので、「分かり」はするのだけど、やはり残念であった。

 

などとネガティブなことも書きつつも、基本的にはめちゃくちゃオススメの一冊です。私は単なる場末のブロガーだけども、仲人Tさんのような文章を書けるようにもなりたいなあ、と。

 

「感情的に感情的な文章を書く」のも、「技巧的に技巧的な文章を書く」のも、実はそう難しくはないと思っている。前者はテンションのまま、後者は数を重ねれば、多分それなりになんとかなる。しかし、やはりネット世代的にどうしても惹かれてしまうのは、仲人Tさんのような「技巧的に感情的な文章を書く」なのだ。しかも、裏抜け上等のゴリゴリの筆圧を加えて。

 

そういう文章ほど、びっくりするくらいあっという間に読まされてしまうものである。「巧い」文章には、引力と速度がある。