ジゴワットレポート

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感想『スパイダーマン ホームカミング』 なぜスパイディは愛されるのか、ホムカミはその答えで構成された逸品である

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もちろん公開当時に映画館で鑑賞した作品だが、感想を書き忘れていたのと、『インフィニティ・ウォー』にあわせて買ったBlu-rayで再鑑賞できたので、改めて感想を書き残しておこうかと。

 

『スパイダーマン ホームカミング』は、ついにMCU入りを果たした新シリーズの第一弾。『インフィニティ・ウォー』のクライマックスはあんな感じで終わったが、こちらは続編の公開が2019年7月に予定されている。

 

Spider-Man: Homecoming (Original Motion Picture Soundtrack)

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実写映画スパイダーマンシリーズがどういう変遷を辿ってホムカミに至ったかは、語り出すと「アメスパ狂信者」として涙を禁じえなくなるので、ここでは割愛しておく。

 

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本作のスパイダーマンは、全2シリーズより若干幼いキャラクターにチューニングされており、「危なっかしい」という表現がぴったりのバランスで完成している。MCUにおけるヒーローは基本的に出自で色々あった奴が多いが(神だったり冷凍していたり)、ピーター・パーカーについては絵に描いたような「普通のティーンエイジャー」として設定されている。強いて挙げるならアントマンが近いけれど、あれはいい歳したオッサンならではの作劇だ。

 

だからこそ、「誰かに認められたい」「早く大人の仲間入りをしたい」という十代特有の悩みを抱えており、物語はそれを「アベンジャーズに憧れる新米ヒーロー」という形で出力するため、自然と観ている側が思春期の頃の自分とヒーローであるスパイディを重ねて観てしまう。ヒーローに憧れた経験はなくとも、それでも、アベンジャーズに入りたくて空回りしてしまう彼の焦燥感が痛いほどに伝わってくる。誰だって、大なり小なりそうやって思春期を過ごしてきたのだから。

 

この手のジャンルに限らず、映画の面白さは「自分と違う環境にいるキャラクターの心理を疑似体験できる」ことにあると思っている。フォースを使ったことがなくても、恐竜に追いかけられたことがなくても、宇宙人を匿ったことがなくても、その劇中で展開される心理描写が巧みであれば、脳は勝手に置換を働かせてくれる。そこにこそ、「巧さ」と「面白さ」があるのだ。

 

その点『ホームカミング』は、新米ヒーローのやる気と思春期の形容しがたい焦燥感を上手くリンクさせており、万人がピーターの言動を疑似体験することができる。放課後が待ち遠しくて時計に何度も目をやるカットの切り方、高揚感を煽るスコア、友人との軽妙な掛け合い、その全てが疑似体験に足る完成度だ。

 

裏路地でたまらず服や靴を脱ぎ捨てるピーターなんか、待ちわびた漫画の新刊の包装ビニールを帰宅途中に破り出す私とそっくりである。

 

 

そしてその「疑似体験できる心理」、俗に言う「感情移入」の方法論が、本作のヴィラン=バルチャーを演じるマイケル・キートンにも適用されている。

 

ワルい奴だけど、彼は誰よりも奥さんや娘を大事に想っていて、自分の小さな会社の従業員を守る経営者としての責任を感じている。普遍的な「市井の人」だ。そんな庶民が悪に傾倒 “せざるを得なかった” チタウリ襲来からの一連の出来事も、感情移入をさせつつ、MCUの世界観に広がりを持たせている。トニー・スタークは彼のことなんかろくに知りもしないだろう、という辺りが、より一層苦いものを感じさせる。

 

『ホームカミング』はそんなふたりが対決する構図になっており、スパイダーマンは空回りする少年がヒーローに羽化する過程を、バルチャーは社会のシワ寄せを喰らった大人が失った正直さに挫かれる流れを、それぞれ体現している。

 

どちらも、誰もが経験し、誰もが一歩間違えれば落ちるかもしれない、そんな境遇を背負っている。テーマとしては非常にミニマムだが、だからこそ、万人が楽しめる内容だ。

 

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私の嫁さんはあまりこの手のジャンル映画に興味を持たない人間だが、スパイダーマンだけは大好きだ。サム・ライミ版も、アメスパも、彼女は全部観ている。その理由を尋ねると、「学生生活とか恋愛とかあるし、敵もただ悪い奴とかじゃなくて色々悩みとかあるから」と答えてくれた。

 

「親愛なる隣人」の異名は、そのテーマやメッセージが受け手にとって非常に身近であることにも通ずるのだろう。スパイダーマンというキャラクターの認知度の高さ、興行的な強さは、やはりこの辺りにあるのだろうか。平たく言えば、「親しみやすい」のだ。敵も味方も。

 

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『ホームカミング』は、一見すれば最初から最後まで「ピーターが無茶をする」で物語が構成されている。それは、スーツを没収され、あろうことかヴィラン本人に釘を刺された後でも、実行される。では、物語序盤~中盤の彼の「無茶」と、終盤の「無茶」は、何が違うのか。

 

事象としては、この両者に大きな違いはない。シチュエーションとして、スーツが無くとも無茶をする、大人のバックアップが無くても信念を貫く、彼のめげない精神がついに大人たちを認めさせる、そんな成功譚として紡がれている。とはいえ、そもそも、ヒーローの活動に「無茶じゃない」は在り得ないのだ。囚われの身でアーマーを開発して脱出するのも、ミサイルごと異世界の扉に突っ込むのも、間違いなく「無茶」だ。

 

しかしここで大事なのは、「結果としての無茶」と「信念を持っての無茶」の違いだ。自覚的に無茶をする。本作のピーターは、やる気が空回りしての「無茶」から、ヒーローの誰もがやってきた「分かっていて無茶をやる」にまで成長していく。スターク社の積荷を守れたのは、その結果論に過ぎない。

 

それは言葉のアヤだろう、本質的には何も変わっていないのではないか。そういう意見も、分かる。しかしどうだろう、十代の少年って、何か劇的で新鮮なイベントひとつでグッと成長していくものだろうか。それ以前にも行っていた言動が、いつかのタイミングで自分にとって「違う意味」を持ち始め、そうして、物の見方が変わり、感じ方も変わってくる。第三者から見れば「結局一緒じゃん」と言われるような言動ひとつに、実は言葉にできない「学び」や「気づき」があったりする。

 

そうして、なんとなく、次第に、グラデーションのように大人になっていくのではないだろうか。

 

本作のピーターは、最初から最後まで「ヒーローに憧れて無茶をする少年」だ。しかしこの133分の物語の中で、確かに無茶をし続けるけれども、それによって学んだ何かが確実に彼の中にあったのだろう。十代の成長は、大人の忠告に従うことでも、自分の意見を貫き通すことでもない。「いつも通り」の中に、いかに「いつもと違う自分」を見つけるか否かである。

 

彼が仮にトニーの忠告に従ってバルチャーから手を引いていれば、彼は本質的に「バルチャー側」の人間に転じていたかもしれない。社会の構造に屈する、という意味で。それに負けて道を逸らしてしまった人間を、眩しいまでに正直すぎた少年が正面から挫く。この構造にこそ、意味があったのではないだろうか。

 

それは実は関係性として「父親と反抗期の息子」に近いものがあり、息子がいないバルチャーと、父がいないスパイダーマンが、相互にその役割を演じることで成立している。これも同様に、多くの観客にとって非常に身近な、ミニマムなテーマなのだ。

 

細かいポイントを語り出せばきりが無いが、総括として述べるなら、スパイダーマンというキャラクターやコンテンツの強みを今一度見直し、その核にある魅力を前2シリーズと違う角度で切り取った『ホームカミング』は、MCUブランドの底力をまたもや見せつけてくれた逸品だと言えるだろう。

 

スパイダーマンはなぜ多くの人に愛されるのか。その答えが、『ホームカミング』にはたっぷりと詰まっているのだ。

 

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