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特撮ドラマ『荒神』感想。「シン・ゴジラっぽい怪獣」はいかにして撮られたのか、樋口真嗣監督の解説と共に振り返る

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荒神 (新潮文庫)

 

TVドラマで新作怪獣モノが観られる、というだけで無条件にワクワクしてしまう。2月17日にBSで放送された、NHKスペシャルドラマ『荒神』。原作・宮部みゆきによって描かれる、怪獣+時代劇ドラマ。

 

怪物と人間たちの死闘を、最新のVFXを駆使して描くエンターテインメント時代劇「荒神」。

関ヶ原の戦いから100年。東北の寒村に怪物は突然現れ、村人を殺し村を焼き尽くした。怪物はなぜ現れたのか? どうすれば倒すことができるのか? 怪物との戦いの陰で繰り広げられる愛憎劇、やがて明らかになる怪物誕生の意外な真相。そこに浮かび上がるのは、罪深い人間の業だった。ある宿命を背負った朱音あかね(内田有紀)たちと怪物との戦いの行方は――。

 

www6.nhk.or.jp

 

どんな怪獣かというと、こんな怪獣です(下記ツイートの予告参照)。この2018年にこのデザインということで、どうしてもシン・ゴジラ、特に第二形態を連想してしまうところ。皮膚というより、眼の焦点のニュアンスや歯の造形が似てますよね。設定上は、トカゲやガマの死骸から作られた怪物。

 

 

ゴジラ ムービーモンスターシリーズ ゴジラ2016(第二形態)

ゴジラ ムービーモンスターシリーズ ゴジラ2016(第二形態)

 

 

ネタバレ故に詳細は避けますが、さすがの宮部みゆきというだけあって、「人間の業の物語」だったな、と。なぜこの気持ち悪い怪獣が作られるに至ったか、その封印はどうして解かれたのか、退治するには何をしなければならないのか。物語が進行するにしたがって次第に真相が明かされ、重い展開がボディブローのように効いてくる。そんなドラマでした。

まあ、「人間ドラマの間の取り方がゆったりしてるな・・・」とか思うところもあったし、終盤の「こうすればこうなるんです!」→え?今の説明でその結論いけるの?、みたいなのも引っかからなかったといえば嘘なんですけど、得体の知れない怪獣を取り巻く物語として大筋は良かったと思います。

 

正月にこのドラマの存在を書店のポスターで知って、色々と調べてみると、一部では「シン・ゴジラの元ネタ」として語られているよう。岡田斗司夫氏は下記記事でもはや確定情報のように書いているんですけど、これはどこかにソースがあるのかな?

 

ch.nicovideo.jp

 

そんな「シン・ゴジラっぽい」と各所で話題の怪物(作中呼称「つちみかどさま」)と、ドラマの撮影・特撮について。

 

文庫版『荒神』の巻末に解説として『シン・ゴジラ』の樋口真嗣監督が筆を執られていまして、これがまた特撮オタクとしては中々面白かったんですね。

通常(?)、小説の解説というのは作者の来歴や作品の感想・分析が並ぶと思うんですけど、樋口監督の場合は、「自分だったらこの作品を怪獣映画としてどう撮るか」というシミュレーションをずーっと並べていく内容になっているんです。これ多分、特撮に興味の無い人は全然だと思うんですけど、自分は読んでいてとても面白くて。

 

で、前述の「『荒神』って『シン・ゴジラ』の元ネタ?」という話と照らし合わせると、知りたいのはこの解説が書かれたタイミング。手元の文庫版を見てみると、発行日は「平成29年7月1日」、解説が書かれたのは「平成29年4月」とある。ちなみに、『シン・ゴジラ』の公開日は「平成28年7月29日」である。

 

 幸いなことに、3DCGを使った怪獣映画はつい最近作ったという経験があります。

 日本を舞台にした、日本にしか作れない怪獣映画がこの小説を元に作れるのです。

 

ー文庫版『荒神』解説(684P)

 

この書き方から察するに、「『荒神』は『シン・ゴジラ』の元ネタ」という言説の信憑性は怪しく感じられるが、どこかのメディアで製作陣による証言があったのなら、ご存知の方はお知らせいただきたい。

 

さて、まずは実際のロケ地の話。

作中設定の「永津野」は架空の地名だが、樋口監督は地図から察するにそれが福島県中通りの中部、須賀川市であると推察している。山に囲まれた村を舞台に物語は進行する。

 

 時代劇を撮る上では、如何にして現代を感じさせない風景を探すかが重要になります。文字通り人里離れた山中で撮影しようとするのは、理想的な場所までの移動、宿泊を考えると、決して現実的とはいえません。

 

 例えば、東京のスタジオを拠点として撮影を進める場合、千葉、栃木、山梨といった近隣県の山中を探します。いずれも三時間以内の移動で済み、比較的温暖で安定した気候が期待できます。仮に北海道や東北をロケ地に選べば美しく雄大な風景と引き換えに冬季の撮影は苛酷を極め、逆に九州の場合は夏の台風の直撃に怯えなければならないので、効率よく作業を勧めるにはオススメできません。

 その点でも東北の入口に位置する本作の舞台は実に魅力的なのです。

 

ー文庫版『荒神』解説(676,677P)

 

実際に使用されたロケ地は、東北南西に位置する山形県鶴岡市の庄村映画村。『勇者ヨシヒコ』シリーズでお馴染みのロケ地ですね。奇しくも、樋口監督の読み通り、「東北の入口(=福島県)」の隣県であった。

 

www.s-eigamura.jp

 

そして肝心の怪獣こと「つちみかどさま」だが、今回のドラマ版では3DCGによる表現が採択された。

従来の怪獣特撮で用いられてきたSFX(着ぐるみ+ミニチュア)ではなく、3DCGで作られた怪獣を実景に合成する手法である。これは『シン・ゴジラ』でも用いられた方法で、前述の樋口監督の「3DCGを使った怪獣映画はつい最近作ったという経験があります」という解説とも符合する。

 

シン・ゴジラ Blu-ray2枚組

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余談ですけど、『シン・ゴジラ』が全カット3DCGなの、頭では分かっていても、感覚として理解が追いつかないシーンがいくつかあるんですよね。未だに、ですが。特に予告でも印象的だった首を上に向けて咆哮するカットは、予告の時点でギニョールだろうと信じて疑わなかったんですよ。

公開後に福岡で行われた「ゴジラ展」に行ったんですが、5mほどのアニマトロニクスが展示されていて。操演で動くそれも、実際に作っておきながら使わなかったということなんですよね。全体の画の統一性、クオリティの問題、色々あったと思うんですけど、あれを作って使わないという判断は生半可じゃないな、と。

 

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そんな諸々を経て描かれた全編3DCGの『シン・ゴジラ』に続き、3DCG和製怪獣「つちみかどさま」がまさかのTVという媒体でデビューしたのは、怪獣好きとしては何だか感慨深くもありますね。3DCGならではの、ヌメヌメした質感、複数の目が常に動き回る気持ち悪さなど、まさかTVでこれが観られるなんて、という感動すらありました。地面に着かずにジタバタする前足(?)のチャーミングさといったら。

 

では、樋口監督だったらこの「つちみかどさま」をどう撮っていたのか、という部分。

 

村一つをあっという間に破壊するような存在を現実に作ろうとするには、少なくとも村一つ作る以上の予算を用意しなければならないのです。 

 

(中略)

 

 以後の砦を破壊しながら繰り広げられる攻防の末の殺戮。己の血を浴びて脱皮しながらの進化。そして因果を孕み昇華していく終局。もはや3DCG抜きで描ける描写は一つもありません。しかも大勢の人物や建造物と密接に絡むのですべてをCGに置き換えるわけにもいかないため、効率的、かつ効果的なカットを作るには綿密な設計が必要です。それに基づいて膨大なセットと破壊のための仕掛け、スタントを準備しなければならないでしょう。ここにリソースの大半を注ぐためには、それ以外の贅沢を切り詰めなくてはならないのが、我が国の映画づくりの現場であり限界なのです。

 

ー文庫版『荒神』解説(682,683,684P)

 

「つちみかどさま」は、もちろんのように人間より大きいが、動きは速い。原作でも「どっしりと重く、ぬるりと速い」と表現されている。どっしりとした怪獣が速く動くほど、映像として難しいものはないだろう。かの『ゴジラvsビオランテ』のメイキングで大人数でワイヤーを引っ張ってビオランテを前進させていたのを思い出す。

 

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ドラマ版ではオミットされてしまったが、原作の「つちみかどさま」には擬態能力が備わっているとのことで、その辺りの表現も含め、樋口監督は3DCGを使わざるを得ないという結論に至っている。そして、実際のドラマ版でも同様に3DCGが採択された。

真昼間に村を蹂躙する「つちみかどさま」は(完全に明所というのも素晴らしかった。ごまかしの効かない映像真剣勝負!)、ノッシノッシと歩きながら人を舌で絡めて飲み込み、踏み潰し、尻尾で家屋をなぎ払った。画面奥に「つちみかどさま」&両脇に家屋&手前に対峙する人間、という構図も多用され、合成チームの苦労を察するところである。

メイキングによると、全身タイツのグリーンマンが「つちみかどさま」役として現場を走り回ったらしく、ディスク化の際はぜひメイキング映像も収録して欲しいところ。

 

また、ドローンを使用しているであろう上空からの視点で、田園をドシドシと進攻して逃げる主人公たちを追い回す「つちみかどさま」も、引きの絵が効果的に用いられていた。あのカットが私の一番のお気に入りだ。

 

惜しむべきは、作中の「つちみかどさま」初登場シーン。

蓑吉という少年の回想シーンだが、夜とはいえいきなり全身がちゃんと映ってしまった。その後の砦破壊シーンでの登場カット(窓の外で影が動き、開けると巨大な眼がこちらを向いている)がものすごく良かったで、ここを完全なる初登場シーンにして、序盤の回想では「見えるようで見えない巨大な影」くらいにして欲しかったかな、と。どうしても、怪獣モノには「焦らし」の要素を期待してしまうのだ。

 

などなど、樋口監督の解説を引用しつつ(想定された手法の多くが的中しているという結果に!)、『荒神』の映像を振り返る、という話でした。見逃した方はNHKオンデマンドで観られるらしいので、是非に。

 

荒神 (新潮文庫)

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▲本稿で引用した樋口監督の解説が収録されているのがこちら。

 

荒神絵巻

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▲原作新聞連載時の挿絵集。描くは『この世界の片隅に』のこうの史代氏。

 

CGWORLD (シージーワールド) 2018年 03月号 [雑誌]

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▲『荒神』のVFXメイキング特集が組まれているとのこと。読みたい。

 

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