ジゴワットレポート

映画とか、特撮とか、その時感じたこととか。思いは言葉に。

どうして本人が望んでいても「卒業してすぐに結婚」しない方が良いのか

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ゼクシィ首都圏 2018年 2月号

 

陸王』が話題をかっさらった2017年の冬ドラマでしたが、私は同時期に放送していた嵐の櫻井くん主演の『先に生まれただけの僕』にも相当ハマって観ていました。

櫻井君は大手商社のやり手営業マンなのですが、ひょんなことから会社が教育事業として持っている私立高校の校長先生をやることになって・・・ というあらすじ。営業マン・サラリーマンの観点から、教育業界の歪な部分や慣習になっていた構造に問題提起していく、というスタイルで、これがとても面白かったんですね。夫婦で毎週楽しみにしていました。

 

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その中で、特に印象に残っているのが、第7話で起きたある問題。

 

2年生の女子生徒(成績優秀)が、大学進学をせず、卒業したら交際中であるバイト先の社会人男性と結婚すると主張する。シングルマザーである母親は猛反対するも、娘は主張を曲げない。で、母親が学校に相談し、学校としても何らかの答えを出さなくてはいけなくなる、というお話。

まあ、そもそも「学校が介入する話か?」という気もするのだけど、進学にも関わって来るし、母親が直接相談に来たのだから、やっぱり対応せねばならないよなあ、と。

 

で、学校側(+母親)と女子生徒(+相手の男性)の意見交換会・・・ という名の戦いが始まる訳ですけど、前提として、両者の意見はこんな感じ。

 

【学校(+母親)】

・定型的な「まだ早いのでは?」という疑問

・学校側は経営改善のために進学率を上げたい思惑がある

・その生徒は成績が良く、難関大学への合格も見込める

・母親も「結婚はまだ早い」と考えている

 

【女子生徒(+男性)】

・母親がシングルマザーで苦労してきたのを見ている

・母親から「幸せな家庭を作ってね」と言われながら育った

・今、それを叶えられる状況にある

・相手の男性は出世コースに乗っており収入面は心配ない

 

これ、非常に難しい問題だな、と。

ぶっちゃけ、こんな問題は人それぞれでしかなくて、そもそも「大学進学か結婚して家庭に入るか」の二択に絞って話し合うこと自体、選択肢を並べ切れていない気もする。とはいえ最大のポイントは、このドラマにおける櫻井くん扮する校長が「本人が本気でやりたいことがあるのなら、それをバックアップするのが先生という職業である」というスタンスを主張してきたことなのだ。

 

この場合の女子生徒の「本気でやりたいこと」は「卒業後の結婚」であり、それが母親から教えられた昔からの夢で、該当する男女は互いに納得済みで、経済的にも問題がない。さて、櫻井くん率いる先生たちは、前述のスタンスを保ったまま、生徒にどのような道を示すことができるのか。

行き当たりばったりで主張が変わっては「先生」の名折れだし、かといって盲目に「本人たちが望んでいるならその通りに後押ししよう」を答えとして良いのか。個人的には、ここの駆け引きにどういった決着がつくのかが興味津々でした。

 

頭ごなしに「結婚は早い、大学に行きなさい!」と目上パワーを炸裂させて学校と母親で同時に押さえつけることは、可か不可かであれば、可だろう。しかしそれは、生徒本人にとって望ましいことではないし、ましてや「教育」と言えないかもしれない。

この場合は、もし「結婚はまだ早い」という答えを提示するならば、「なぜ早いのか」に根拠を持たせなければならないのだ。該当の生徒は物事に対する理解力も高いとされており、生半可な理由、ましてや雰囲気で説得するようなことは、許されない。

 

・・・という状況で、「もし自分が櫻井くんの立場だったらどういう答えを提示できるのだろうか」と考える訳ですが、実際に展開された答えに、とても感銘を受けたんですね。

 

櫻井くんはまず、学校側として「経営改善のために進学率を上げたい思惑がある」という正直な部分を語りながらも、しかし、それによって生徒の進路選択の幅が狭まってはいけないと思っている、という前置きをする。

そして、こう続ける。「経済面も含め、その全てを結婚相手に委ねるのは危険だと思う」。どういうことかというと、例えば高校卒業して結婚し、専業主婦になったとして、何かのタイミングで相手の男性が働けなくなったらどうするのか。事故や病気で満足に働けないシチュエーションが訪れたらどうするのか。その時に、看病が必要なご主人と子供を抱えたまま、高卒で就職経験の無い女性が、どれほどの賃金を得ることができるのか。

 

この問題提起は私としては非常に納得のいくもので、劇中で櫻井くんは言わなかったけれど、離婚や死別の可能性も十分に考えられるのだ。その際に、該当の女子生徒は「高卒無職」のステータスから出発しなければならない。それが、20代か、40代か、いつやってくるかも分からない。

その女子生徒は能力が高いとされていたので、仮に進学・就職といけばある程度のキャリアを積むことができるだろうに、「その可能性」をこのタイミングで全て放棄してしまうのはリスクが高いのではないだろうか、と。

 

※もちろん「結婚して進学もする」という選択肢もあるのだけど、このドラマの場合は女子生徒が家庭に入って幸せな家庭を作ることを希望していたので、「進学か専業主婦か」という構図になっていたのだと補足しておきたい。

 

本音でいくと私も、例えば自分の娘が将来同じことを希望したとしたら、まず感情面で「え?早くないか?」と反対してしまうだろう。少なくとも、それがまず頭をよぎる。しかし、それは単に「親の言うことに従いなさい」の域を出ないので、褒められたやり方ではないだろう。

じゃあなぜ「早い」と思ってしまったのか。「いつ」が時期として適当なのか。そういった理屈を考えた時に、「もしもの時のためにある程度働けるキャリアや経験を積んでおいた方が良い」という劇中の提案は、すごくスッと入ってくる納得感があった。それは確かに、理屈として筋が通っている。(まあ理屈が通ってれば何事も良いという話でもないけどね)

 

反面、この場合、女子生徒が望むところの「幸せな家庭を作る」の時機を逸してしまう可能性も、もちろん存在する。付き合いが無事に続くか分からないし、そうなると、生涯を通して今のパートナー以上の相手と巡り合える保証はどこにもない。だから、その側面も含めて、最終的には生徒本人が答えを出さなければならないだろう。

ちなみにこのドラマの場合は、泣きながら母親と抱き合うシーンで締められており、描写的におそらく「卒業してすぐに結婚」を諦めたものと思われる。

 

「詭弁だ」という人もいるかもしれない。しかし、理想はともかく、新卒や即戦力(笑)が求められてしまう今の社会において、「結婚相手のキャリア」という視点は大事だな、と改めて痛感した。もし自分が明日大事故にあって長期入院した時に、嫁さんは、娘は、どうなるのだろう。ドラマの場合は女子生徒だったけれど、例えば男女が逆とか、学生結婚とか、応用できるシチュエーションはごまんとあるだろう。

 

私個人の考え方として、「結婚は『好き』だけでやるもんじゃない」というのが昔からあって、それは実際に結婚して子供ができた今でも変わらない。私の働き方に関する考え方や、仕事と家庭における価値観や、育児のスタンスなど、その多くが今の嫁さんとかなり近かったので、結婚したのである。もちろん、愛情は言うまでもなく。

だから、このドラマを観て夫婦2人でほぼ同時に「納得~~」と言えたこと自体が私には嬉しかったし、価値観の近さを改めて実感できる良い機会だったなあ、と。

 

言うまでもなく、この手の話題において、万人に通ずる最適解なんてものは絶対に存在しない。しかし、もし自分もしくは結婚相手が「専業主婦(主夫)」になることを望んだ時に、熟考するに値する考え方のひとつではないか、と思ったのだ。

 

『先に生まれただけの僕』、非常に新しい切り口の「学校ドラマ」だったので、オススメです。

 

 

◆過去記事

jigowatt.hatenablog.com

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