ジゴワットレポート

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実写映画『帝一の國』のあまりにも痛快すぎるラストシーンについて

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下の「2017年映画まとめ記事」を書いた際に『帝一の國』のラストシーンに触れたのですが、そのおかげで無性に『帝一の國』が今一度観たくなり、レンタルしたBlu-rayを二度鑑賞したのが昨日のことでした。

 

jigowatt.hatenablog.com

 

いやあ、本当に・・・ 『帝一の國』のラストシーン、素晴らしすぎませんか!??

 

何度観ても ゾクーーッ て 鳥肌が立つほど好きなんですよね、ラストカット。演出もそうですが、この映画がこのラストカットに向けてどれだけ計画的に作られてきたのか、それが後から後からジワジワ効いてくるのがまた最高で。

 

特筆すべきは、エンドロールに入る直前のラストカット。主人公である帝一がある台詞を発して、そこからスパッとエンドロールに入って流れる主題歌が『イト』。こんな鮮やかな幕引きがあっていいのか、と。思い出しても身震いしますね。

 

上の記事の引用ですが、ネタバレを避けるとこの程度が限界なので、以下、ラストシーンまでのネタバレ込みで語らせてください。

 

帝一の國 通常版Blu-ray

 

この映画の痛快すぎるラストシーンに向けて、主に2つの要素が準備されていたと思うんです。ひとつは「ピアノ」、もうひとつは「拍手」。

 

まず「ピアノ」からですが、本作では映画として1本の筋を通すために、この「ピアノ」が主人公にとってどういう要素だったのかを原作から再構築してあるんですね。

 

主人公である帝一は幼い頃から母にピアノを教わり、コンクールで賞を取るほどその能力を開花させていた。が、政敵に敗れ息子にそのリベンジを託そうとする父親に「ピアノよりやることがあるだろ!」と強く叱咤され、揉め事の末に頭を打ち、目が覚めた後に「自分の国を作る」ことを宣言する。

頭を打ったことがひとつのきっかけとして描かれているが、その本音は「自分の国なら誰にもとやかく言われずに自由にピアノが弾けるから」。あれから一度もピアノを弾いていないと父親の前で漏らす帝一に、観ているこちらの涙腺が緩む。

つまりは、「総理大臣になりたい」「生徒会長になりたい」といった「野心」の動機として、彼の中には「ピアノを弾きたい」という誰よりも純粋な願いがあった、と、いう、綺麗な物語に落ち着くと見せかけておいて・・・ という辺りがラストの展開の肝である。

 

幼い頃の帝一が冒頭のシーンで弾いているのが、「マリオネット」という曲。つまりは「あやつり人形」。これがラストシーンでも美しく弾かれ、「ピアノ」と主人公の動機を絡ませた物語は綺麗な終わりを迎えるのだが・・・。

 

そしてもうひとつのポイントが「拍手」の演出。

舞台として、時は昭和。まだ今より厳格な雰囲気が残る男子校。日本でも随一の学力と歴史を誇る海帝高校は伝統と礼儀を重んじるからか、「拍手」の演出がやたら強調して描かれる。

生徒会長がなにか言葉を発すると、その場に座っている全員がバッと両手を胸の位置に挙げて間髪入れず拍手、ものの数秒で線を引いたようにそれが鳴りやみ、全員がスッと手を膝に戻す。この一糸乱れぬ「ものの数秒の高速拍手」が、全編を通してやたら印象的に演出されるのだ。

この「拍手」もまた、ラストカットで披露される。そこが最高なのだ。

 

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さて、以上2点、「ピアノ」と「拍手」を踏まえて、クライマックスの展開を思い返していきたい。

 

主人公・帝一、そのライバルで姑息な奴・菊間、人望と正義の男・弾。この3人の生徒会長選挙が行われるシーンが本作のクライマックスである。

まずもってここの劇伴が素晴らしい。クラシカルに壮大さを醸しだすメインテーマが高らかに鳴る中、森園会長により改革された全校生徒での投票が体育館で行われる。

 

帝一の歌

帝一の歌

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菊間は票が集まらず、投票終了の前に事実上の敗北。帝一と弾の一騎打ちになる。そして、帝一が一票差で勝つか?・・・というギリギリのタイミングで、帝一は自身の一票を弾に投じ、弾の逆転勝利という結果を選ぶ。一年前の選挙戦で弾に借りを作ったことを覚えていた帝一は、弾に「これで借りは返した」と伝え、生徒会長の椅子を譲ることを全校生徒の前で宣言する。

 

前述の「ピアノ」の件も含め、この時点で、物語の落としどころは「有り余る野心に駆られていた帝一はピアノを弾きたいという純粋な気持ちを思い出し、権力より友情を選ぶにまで成長した」というポイントに誘導されている。

しかしその後のシーン、帝一の補佐役である光明が帝一の本心を見抜いたかのように発言する。「総理大臣になる夢、まだ諦めてないよね?」。

 

帝一は実は、負けを受け入れた菊間の姑息な計略によってギリギリのタイミングで「弾に負ける」寸前だった。それを察した光明の伝達によって事態を把握した帝一は、「負ける」から「勝たせてやった」を演出することを決意。わざと弾を勝たせることで「権力より友情を選んだ」というストーリーを仕立て上げ、弾と全校生徒の心、つまり「人望」を勝ち取ったのだ。

実態として選挙制度が改革されていたこともあり、「派閥」も解体され、これからの野心実現のために必要なのは「人望」なのだと語ってみせる帝一。

 

目論見通り全校生徒の人望を勝ち取った帝一は、新生徒会長である弾に自分の就任式でピアノを弾くことを依頼されていた。

そのピアノを美しく弾く帝一。曲は「マリオネット」。光明が「帝一の一番好きな曲、『マリオネット』だよ」と解説を加える。

 

あやつり人形

あやつり人形

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それを受けて弾が答える、「あやつり人形、か」。満足そうにピアノを弾く帝一に視線を送る。

「あやつり人形~?」と小馬鹿にしたように反応する菊間。

光明が「そう・・・」と呟く。

 

直後、帝一の「マリオネット」の演奏が終わる。

瞬時に鳴り始める「拍手」。一糸乱れずにそれがホール内に響く。

 

そしてピアノの鍵盤から顔を上げた帝一のアップ。

鳴り響く拍手でかき消されることを見越したかのように、帝一が呟く。

 

 

 

「君たちのことだよ」

 

 

直後、スパッと拍手が鳴り止み、ホールには一瞬、その余韻が残った。

 

イト

イト

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そしてすぐに突入するエンドロールのテーマソング!かき鳴らされるギターのイントロ!タイトルは「イト」!「糸」!!

 

 

ん~~~、あまりにも痛快すぎる!!

 

 

いや~、素晴らしい。何度振り返ってもゾクっとする。

つまりですね、「権力より友情を取った」という、ある意味青春映画として「正解」とも言えるストーリーラインにギリギリまで誘導しておいて、最後の最後にそれを見事にひっくり返し、「人望という名の糸を、あやつり人形たち(弾と全校生徒)に張り巡らせた」という帝一の真意が判明して終わる訳です。

それをあえて短い間だけ鳴り響く「拍手」の中で に ん ま り と微笑みながら呟き、直後に拍手が鳴りや止む。当然、周囲には聞こえていない。帝一の腹黒い野心が未だ燃え続けていたことが強烈に印象付けられたまま、エンドロールに突入する。

 

あまりにも鮮やか!!!

この映画のキャッチコピーは「野心が、止まらない!」なんですが、文字通り友情によって掻き消えたと思った野心が最後まで腹の底で燃えていたことを暗喩しているようで、これもまた素晴らしい・・・!!

 

帝一は確かに、「自分の国なら誰にもとやかく言われずに自由にピアノが弾けるから」、総理大臣を目指したのだろう。しかし、それが偽りのない本心でありながら、同時に、長年抱いてきた野心も純粋なる思いとして築かれていたのだ、と。彼の中でグツグツと煮えたぎるその野心は、もはやピアノとは別の次元で、確固たる地位を確立させていたのではないか。

そういう、テーマの本懐に迫るアプローチが最後にしっかり入ってくる。ここがまた輪をかけて痛快なのである。

 

・・・という感じで、「語りたいだけ語らせてくれ」という感じでしたが、同作を鑑賞した人はきっとこの興奮が分かってくれるはず!

などと書き残して、終わりにしておきます。うーん、やっぱBlu-ray買おうかなあ。

 

帝一の國 豪華絢爛版Blu-ray

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