古沢良太の脚本構成の巧さには、『リーガル・ハイ』で感嘆し、『デート ~恋とはどんなものかしら~』でのめり込んだものだが、今作『ミックス。』や2年前の『エイプリルフールズ』など、どうにも自分が好きだった部分が削がれていったような寂しさがある。
彼の脚本は『バクマン。』で言うところのシュージンと同じで、完全に「計算して書く」タイプのそれ。散りばめられたパズルを組み上げる様を魅せ付けるその面白さは、『キサラギ』がある意味最も分かりやすい。(『キサラギ』は後だしジャンケンの連続という構成なのだが、それがテンドンのネタとしていくところまでいってるのが面白いし、その到達はまさに計算された産物だと思っている)
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また、実写版の『寄生獣』では、2本の映画で前後編という尺の中で原作の魅力をギリギリまで盛り込みつつ再構成することに成功しており、尚且つ『完結編』クライマックスのある主人公の行動が「火葬」とも取れる皮肉に満ちたアレンジには、当時ものすごく感動した覚えがある。
そんな、「パズルの巧さ」や「確かな交通整理力」を、理屈的なアレンジでまとめ上げる面白さが古沢脚本の魅力であり、毒気やパロディーにオマージュといったフックが多いのも特徴だといえるだろう。同氏が書いた漫画『ネコの手は借りません。』も面白いので、オススメである。
そんなこんなで前置きが長くなったが、本題の『ミックス。』はどうかというと、私はあまり楽しめなかった。
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といっても、「挫折した者たちの再起をかけたスポ根ドラマ」なので、そりゃあ、定石通りの面白さは確実に保証されている。誰もが期待するカタルシスは、一定のレベルで訪れる。が、『エイプリルフールズ』と同じように、古沢脚本の一番の魅力であったはずの「パズルの面白さ」が足を引っ張ってしまっている。
例えば、主演の新垣結衣と瑛太は最終的に恋仲になる訳だが(この2人は恋仲にならない方が好みだったのだがそれは本当に好みの問題なので仕方ないとして)、話の流れとして、持って行き方が明らかに片手落ちなのだ。
クライマックス、運命の試合当日、仲間は次々と試合会場に行き、新垣結衣はメールを読みながら自分のふがいなさに涙する。そこに、嫁と娘とやり直す大切な面接を犠牲にして、瑛太が駆けつける。
「迎えに来たぞ」
そしてキス。音楽ジャーーン!カメラぐわーーーっ!感動~~~~!
感動するかよ!!!!!!!!!!!!!!
いやね、あのね、この後の試合中に瑛太が真相を語るシーンがあるじゃないですか。「嫁と娘とは本当は終わっていた」というくだりを。それ自体は分かる。だから新垣結衣とふたつの意味でペアになった。それは良い。
が、「試合に行くぞ」と王子様のように駆けつけたタイミングでは、その関係性のネタバラシは観ている側に提示されないので、瑛太が「嫁と娘との仲を取り戻したいがために頑張ってきたけど急にそれを全部捨てて新垣結衣とキスするクズ男」にしか見えない。
こんなことってあるかよ!!!!!!!!!!下手か!!!!!!!!!!!!
なんだそれ!!!!!!!!!!
色々引っかかりながらもそれなりに楽しんで観ていたのに、ここで急に「え?瑛太クズすぎない?え?」ってなってしまって、その後の敵との対戦で盛り上がっていく数々のシーンにことごとくついていけない訳ですよ。結果的に試合の途中で「そうじゃない」ことが本人の口から説明されたとしても、その前のシーンではずっと(観ている側は)裏切られているというのに。なんでこんな作りになっているのか。分からない・・・。
「パズル的な面白さ」を求めた結果の、「実はこんな真相でした~」「なんだ~!じゃあガッキーと瑛太は安心してくっつけるね!」という反応を求めてのシナリオ上のトリックだとは思うが、完全に裏目に出ていたと言わざるを得ない。
ここが一番のがっかりポイントなのだが、その他にも、そういうキャラだと分かってはいるがあまりにも虐待が過ぎるので観てて不快な真木よう子とか、あまりにも倫理的に狂人のレベルに達している瀬戸康史のあれこれとか(演技は上手かった)、蒼井優の熱演はともかくあまりにも類型的すぎる中国人の描き方、偶然頼りすぎる居合わせ方、下品すぎて笑えない「おかずにしてた」のくだり、ピンチのためのピンチでしかない終盤前の展開など、目を覆いたくなる部分が多かった。
こんな・・・ こんな古沢脚本・・・ 観たくねぇ・・・ 観たくねぇよ・・・
まあね、とはいえね、ちゃんと盛り上がって、ちゃんとテーマに収束して、有名俳優がオールスターなので、一定の面白さはあります。ありますよ。でも、古沢良太なら・・・ 彼なら・・・ もっとやれたんじゃないかと・・・ そんな哀しみと一緒だった119分でした。
挿入歌が流れる特訓シーンは、ベタながら良かったですね。