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「早すぎたパロディ・ミステリの逸品」。折原一『倒錯のロンド』感想

倒錯のロンド (講談社文庫)

 

この折原一への先見の明はわずか三年ほどの間に見事に立証されたわけだが、近い将来『倒錯のロンド』は ≪早すぎたパロディ・ミステリの逸品≫ として間違いなく古典の仲間入りを果たすであろう。

 

『倒錯のロンド』(講談社文庫)結城信考による解説(P334)より引用

 

本書は、私が大学時代に何気なく本屋で見かけて購入した一作。叙述ミステリに属する推理小説だが、何年かに一度、思い出したように読み返してしまう。

 

「叙述ミステリ」はそうだと宣伝し公言する時点で重大なネタバレである、というのは最早ひとつの通説で、この論法を突き詰めると、昨今のSNS等でよく飛び交う「ネタバレ注意を喚起する時点でネタバレ」「どんでん返しがあると語るだけでネタバレ」という文言に辿り着く。

それに準じるならば、この『倒錯のロンド』についても本稿開始100字ほどでいきなりネタバレをかましてしまった訳だが、しかし本作については「叙述ミステリである」ことを知ってから読む面白さが強い仕上がりとなっている。

 

ストーリーは、推理小説の新人賞に応募するために奮闘する主人公の苦悩の日々から幕を開ける。苦労してやっとのことで原稿を書き上げるも、ひょんなことからそれを紛失し、果てには盗作され、先に発表されてしまう。更にはその作品と作者が世間の注目を集めたことから、主人公は歪んだ嫉妬心と復讐心を膨らませていく・・・。

 

お察しのとおり、「倒錯」に「盗作」をかけた構成になっている訳だが、読了済みの方は前述のあらすじの中ですでに仕込みが完了していることにニヤニヤできるだろう。それほどまでに「叙述」のトリックに凝った作りになっており、むしろトリックと叙述構成に凝りすぎて小説というより一種のパズルに踏み込んでいる印象も拭えない。この辺りは、好き嫌いが分かれる部分だろう。

 

面白いのは、作者自身が賞に応募するために苦悩した体験がそのままセルフパロディとして作中に展開されている点だ。これは「あとがき」からも明白で、読んでいるうちに現実と創作の境目があやふやになっていく、まさに「倒錯」を味わえる仕上がりとなっている。

メタフィクションとパロディをこれでもかと積み込み、それをぎちぎちの叙述トリックでコーティングする。終盤では、身構えて臨んだであろう読者に対し、「ここでどう思った?」「このページで気付いたかな?」と一枚ずつカードをめくって教えてくれる。全ての種明かしをある登場人物の語りで律儀に解説するあたり、その作り方には自覚的なのだろう。

 

結果として、本書からは作者の「叙述トリック仕掛けてます。さあ、見破れますか?」というスタンスが隠す気ゼロで匂ってくるので、必然的に、読者はそれに挑戦せざるを得ない。どちらかというと、「叙述トリック物が大好きです!」と公言するような人にこそ読んで欲しいのではないだろうか。

 

叙述のパズルに凝るあまり、似たような展開が続いたり、ある登場人物にあまりに神の視点を与えてしまったりと、個人的に惜しい部分はあるのだけれど、「叙述トリック」に溺れてみたい人には、オススメの一冊です。

 

倒錯のロンド (講談社文庫)

倒錯のロンド (講談社文庫)