ジゴワットレポート

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『陸王』最終回、アトランティスの開発チームを思うと涙を禁じ得ない

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ピアノソロ/連弾 TBS系 日曜劇場「陸王」<公式楽譜集>

 

ドラマ『陸王』、とても面白かったです。毎週嫁さんとふたりで「いけー!」「くそー!」と叫びながら鑑賞していました。娘よ、これを観る度にお風呂に入るのが少し遅れて本当にごめんね。

 

実は私は『半沢直樹』に完全に乗り遅れた人間で、池井戸潤原作の映像作品を観るのは『陸王』が初めてでした。感想としては、上に書いたように毎週手汗をかいて熱中していたのだけど、随分とまあ「わかりやすい」物語だなあ、と。

敵らしい敵が出てきて、かつての敵がどんどん味方になってくれて、ピンチのためのピンチが訪れ、それをチームワークと機転と意地で乗り切って、最後には大団円で終わる。私も含め、視聴者のほとんどが「ど〜〜せ、最後には茂木が毛塚に買って陸王バカ売れハッピーエンドなんでしょ?」と思っていただろうが、本当にその通りになり、しかしそれに熱くなれる。

「わざとらしいけど、それを分かっていて気持ちを乗せられる」。そういうバランスの作り方というか、スカッとする勧善懲悪の味付けも含めて、作り手のフィクションならではの嘘と観る側のテンションを上手く共犯関係にできた作品だったな、と感じている。

 

何より、最後に大地がこはぜ屋に就職しないのが良いし、「出て行くからには戻ってくるつもりでは働かない。それは就職先に失礼だから」と大地本人に言わせるのも素晴らしい。これが無いとただの腰掛けになってしまう。でも、それでも、大地はいずれ多くのことを学んで、こはぜ屋を継ぐために戻ってきてくれるのだろう ・・・と、思いを馳せたくなるほどに、キャラクターに熱中できたのも良かった。というか、足袋屋の長男の名前が「大地」ってのが良いよね。

 

「茂木が優勝インタビューで陸王を宣伝するのは流石に出来過ぎやろ〜〜」と思いつつ泣けてしまった訳だが、本音の本音の感想でいくと、心の底からアトランティスの開発チームに同情してしまった。

 

結局、最終局面で茂木の決断を左右したのは、両者の営業が彼とどう接してきたか、という点である。茂木自身も言っていたように、究極のところ、シューズの性能は決め手にはならなかった。

この場合の「営業」は「営業マン」という意味ではなく、茂木と直接接してきた面々のことを指す。だから、ピエール瀧も宮沢社長も含めて、このドラマは実は「シューズ開発合戦」に見せかけた「誠意ある営業レース」だったのだ。

自分たちのシューズの性能に溺れて殿様商売の営業をした大手シューズメーカーが、品質では敵わないかもしれないが愚直に誠意ある営業を重ねた零細企業に敗北した。両者を分けたのは、客である茂木選手に対し、いかに誠意を見せ、寄り添い、恩義を感じさせたか。結局、そこである。(もちろん、「そこ」に勝負を持ち込むまでの技術面での苦労があったことは、言うまでもない)

 

自分自身の話で恐縮だが、私は最初に勤めた会社で数年間、営業マンを経験した。

 

こはぜ屋よりは大きい会社だったが、毎日のように担当企業を回って商品を売った。その時の上司に、よく「商品を売るな、お前を売れ」と言われたのを今でも覚えている。「商品を売ると、その商品より良い商品が出てきた時に、お前は必ず負けてしまう。だから、お客のためになることを考えて、そのために提案し続ける営業マンであれば、いつかは商品よりお前そのものを買ってくれる」、と。

ただ、まあ、これは理想論だ。多分これを私に口煩く言っていた上司も分かっていたし、私自身も分かっていた。会社の判断で売りたい商品を売れないことは日常茶飯事だし、まるで騙すような罪悪感を抱えながらこちらに利のある商品を持って行ったこともある。常に「お客様のために」なんてのは、無理か・無理じゃないかの二択なら、無理だ。

でも、理想論を追うことそれ自体は悪くないし、考え方の基本として持っておくことは大事なんだと、そう思って営業マンをやっていた。実際、ある程度自分に仕事を任せられるようになった時に、会社の利益より「お客様のために」を優先した決断をしたこともある。そういう場合は、その後にお客様に還元してもらえるシーンもあるし、もちろんそれが無いことだってある。でも、どうせそれなりにキツい営業の仕事なのだ。理想論に根ざしたプライドと信条くらい、持っておきたかった。

 

jigowatt.hatenablog.com

 

この記事でも書いた上司です。ほんと今でも尊敬しています。

 

その後、色々あって転職したのだけど、今の仕事は全く逆の立場に行き着いた。つまりは、「営業マンを迎える側」だ。飛び込みの営業も含め、とりあえずそれに応対するポジションで今は仕事をしている。

自分が数年間営業マンをやったからか、色んなことが見えて・感じられて面白い。「あー、この人むしろ名刺だけ置いて帰りたいんだろうなぁ」とか、ろくに名乗らずに自分の用件だけノンストップで語り出す人とか。

そうしていく中で、やはり「誠意ある営業」や「お客様のための営業」は受ける側もそれなりにほだされてしまう、ということを体感できた。もちろん、一番は商品そのもののクオリティだし、次にお金の話なんだけど、それらがあまり問題でない局面に差し掛かると、誠心誠意こちらに気を配ってくれた営業マンの商品を選びたくなるのが、どうしようもない人情だ。採択した場合はその営業マンと長く付き合うことにもなるので、やはりどうしても、人当たりが良く、こちらに尽くしてくれそうな人を選びたくなる。人間だもの、しょうがない。

自分が経験したのもあって、「人当たりの良い営業マン」というのは、ある程度演じられるものだというのは体感で分かっている。でも、それを演じるのはそれなりに疲れるし、テクニックが要る訳で、むしろ「ちゃんと演じて」くれるその気概を買いたいのだ。

 

話を『陸王』に戻したい。

 

上で「このドラマは営業レースだった」と書いたが、まさにこの通りで、アトランティスは「RⅡ」を、こはぜ屋は「こはぜ屋」を売り込んだ。こはぜ屋は、真の意味で「陸王」を売り込まなかった。ここが、勝負の分かれ目だったと思う。

言うまでもなく、茂木選手は完全に宮沢社長にほだされた。情に流されて大局を見なかった。結果論として、フルマラソンで優勝し、フェリックスがスポンサーになって援助してくれたから、自分もチームも助かった。ご都合主義で教科書通りでお決まりな「結果論」だ。

でも、やはり人は人なので、究極の結論を迫られた時、人情に流されたくなる。熱く発想し、冷静に考えて、そして人情を選ぶ。だから、私は今の「営業を受ける立場」の人間として、茂木の決断を根っこから「はいはいご都合主義」とは思えなかった。だって、宮沢社長が、こはぜ屋が、どれだけ誠意を尽くしてきたか、ずっと見てきてしまっていたからである。

「誠意を尽くす」という綺麗事をどこまで真剣に突き詰められるか。実際に「やる」とか、「やれる」とか、そういうものの前段階として、いかに相手のことを考えて発想できるか。結局はここの部分で、アトランティスが営業センスに致命的に欠けていたのが敗因だったのだろう。

 

何よりも可哀想なのは、アトランティスの開発チームだ。

「また茂木選手のサポートができるようになったぞ!」と喜びながら、莫大な予算と膨大な時間を注ぎ込んで、研究に研究を重ねて開発したであろうニューRⅡ茂木モデル。これが、ピエール瀧らの高慢な営業スタイルひとつで、ものの見事に捨てられた。涙を禁じ得ない。

彼らは、そこに熱い誠意があったかもしれないし、「お客様のために!」もあったかもしれない。あの悪の巣窟みたいなガラス張りの部屋で延々と計測しながら、真剣に茂木や毛塚の選手生命を案じていたかもしれない。想像の域を出ないが、それらの想いはこはぜ屋の職人たちとなんら変わらないのだろう。

 

だからこそ、使い古された言葉だが、「営業は会社の顔」なのだ。実際にお客様と接する営業マンひとりひとりが、会社の印象を決定づける。たとえ同じ結論でも、酷な提案でも、その営業マンが積み重ねてきた関係性が成否を分ける。

アトランティスが怪我した茂木のサポートをやめると決めたあの序盤の時点で、仮にもし、ピエール瀧が、「私は茂木選手が帰ってくることを信じている。が、会社の決定として苦渋を飲まざるを得ない。茂木くん、怪我を克服して、そして何か結果を出して欲しい。少しでも結果を残してくれれば、それを元に私が上に必死で掛け合いたい。ぜひ、また君をサポートさせてくれ!いつまでも待つから!」と、心の底からこう言える人間だったとしたら、茂木はどうしていただろうか。突如現れたこはぜ屋の営業を受け入れていただろうか。

 

余談として、今期のドラマで、嵐の櫻井くんが主演を務めた『先に生まれただけの僕』という作品があった。バリバリの営業マンが、ひょんなことから私立高校の校長になる、というストーリーだ。「経営者の決断と誠意ある営業」という点で、この2作品は非常に近いものがあったし、奇しくも似たような結論に辿り着いた。

苦渋を飲んでも、苦肉の決断をしても、仲間とともに誠意ある姿勢を欠かさずに挑戦し続けること。それ自体が、苦しくも「仕事の楽しさ」なんだと。

 

振り返ってみるとまるでおとぎ話のような成功譚だったが、『陸王』がこれだけの視聴者に受け入れられたのは、やはり根っこの部分は我々が日々接する価値観に根ざしていたからだろう、と、思えてならない。

本当に、面白いドラマでした。キャスト、スタッフの皆さん、ありがとうございました。

 

私は嫁さんに好評の「茂木のコーチが茂木を呼ぶ時のモノマネ」をもうしばらく練習したいと思います。額にシワを寄せて「モォギッ!」って言うと、ちょっと似ます。あと村野さんめっちゃエエ声すぎてこれも練習してます。

 

陸王

陸王

 

 

 

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