ジゴワットレポート

映画とか、特撮とか、その時感じたこととか。思いは言葉に。

『ベイビー・ドライバー』。その物語が、音楽もカーチェイスも全てを乗せていく。

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ベイビー・ドライバー [DVD]

 

私は普段映画を観る時は、頭の中でブツブツと感想を呟いてしまう人間なんですけど、久々にそれを忘れて思いっきり作品に引き込まれていました。

運よく公開日に観に行けた『ベイビー・ドライバー』。

 

www.babydriver.jp

 

本国での評判の良さから、ネットの映画好き界隈でも以前から話題になっていましたが、どうにも上映館が少ないので人に勧め辛く・・・。

規模拡大とかなりませんかね、どうですかね。

 

ベイビー(アンセル・エルゴート)。その天才的なドライビング・センスが買われ、組織の運転手として彼に課せられた仕事 ―それは、銀行、現金輸送車を襲ったメンバーを確実に「逃がす」こと。

 

子供の頃の交通事故が原因で耳鳴りに悩まされ続けているベイビー。しかし、音楽を聴くことで、耳鳴りがかき消され、そのドライビング・テクニックがさらに覚醒する。そして誰も止めることができない、追いつくことすらできない、イカれたドライバーへと変貌する―。


組織のボスで作戦担当のドク(ケヴィン・スペイシー)、すぐにブチ切れ銃をブッ放すバッツ(ジェイミー・フォックス)、凶暴すぎる夫婦、バディ(ジョン・ハム)とダーリン(エイザ・ゴンザレス)。彼らとの仕事にスリルを覚え、才能を活かしてきたベイビー。しかし、このクレイジーな環境から抜け出す決意をする ―それは、恋人デボラ(リリー・ジェームズ)の存在を組織に嗅ぎつけられたからだ。

 

自ら決めた“最後の仕事”=“合衆国郵便局の襲撃”がベイビーと恋人と組織を道連れに暴走を始める―。

 

※公式サイト「STORY」より引用

 

・・・というお話なんですけど、もう、「とにかく観てくれ」としか言いようのない「映像・音楽の集合体としての面白さ」に満ちているので、この作品の感想やレビューをを文章で書こうとすると、かなり難しいですね。

この時点で何度もキーボードを打つ手が止まってます。

 

寡黙でずっと音楽を聴いている主人公に訪れる人生の転機。

その中に、音楽映画としてのノリの良さ、犯罪映画としての計画を立て実行に至るまでのワクワク感、カーチェイスものとしての度肝を抜くテクニックの数々に、恋愛シーンの甘酸っぱさやドキドキ感、逃亡劇の面白さまで、抜かりなく詰まっている。

それらが高級幕の内弁当のようにぎゅうぎゅうに詰まっていて、しかもどれもが必要以上に干渉しない絶妙なバランスで成立しているので、そりゃあ、「面白い」んですよね。

上映時間が113分ということで、ここまでエッセンス(ジャンル)が複合されているのに2時間を切っているのも最高ですね。

 

まあ、まずもって、何より音楽の使い方ですよ。

前述のとおり、主人公は常に音楽を(iPodで)聴いていて、その音楽が常に映画内でも鳴り響いている、という設計の映画な訳です。

 

物語そのものも終始主人公の主観で描かれるので、音楽の使い方も主観的。

つまり、iPodのイヤホンを外すシーンでは流れる音楽はあの独特の軽い「シャカシャカ音」に変わるし、そのイヤホンを耳にはめ直せばスッとクリアな音に戻る。

耳鳴りがあればキーンとなって音は曇るし、とにかく、主人公と我々観客の耳がかなりの次元で「同期」するので、没入感も相当なもの。

 

それに合わせるように、作品内で鳴る効果音(SE)までもが音楽に乗っかっていくのが面白い。

街中の雑音、主人公の足音、通りすがりの人が操作しているATMのプッシュ音、車のクラクション、果てには銃声まで。

その全てが主人公が聴いている音楽に合わせて鳴り響くという、もはやミュージックビデオとでもいうべき演出の数々。

 

直近で挙げれば『ラ・ラ・ランド』冒頭の『Another Day of Sun』で車のクラシックに音程をつけて曲の合間に挿入する、というのがありましたけど、雰囲気としてはああいう感じですね。 

 

Another Day of Sun

Another Day of Sun

  • La La Land Cast
  • サウンドトラック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

(公式でも【これぞカーチェイス版『ラ・ラ・ランド』!】と宣伝されてますけど、エドガー・ライト監督自身はあまりそのコピーを歓迎していないっぽい、という話は、まあ、あるんですけどね。あくまで効果音の使い方の例ということで・・・)

 

realsound.jp

 

あと、「ここぞ!」というシーンで『Hocus Pocus』が流れたのも最高でしたね。

この曲、リブート版『ロボコップ』中盤の戦闘訓練シーンで使われて以来、何年も聴き続けていたので。

 

Hocus Pocus

Hocus Pocus

  • Focus
  • オルタナティブ
  • provided courtesy of iTunes

 

 

ロボコップ [Blu-ray]

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・・・などとまあ、「音楽の使い方や効果音の演出が最高ですよ!」にはじまり、「カーチェイスすごい!」「犯罪ものの面白さと計画が狂っていくヒヤヒヤ感がすごい!」「恋愛シーンのイチャイチャ感がすごい!」と語ればいくらでもあるんですけど、結局、この作品を傑作たらしめているのは、その本筋にある「物語」そのものだと思うんです。

 

 

※以下、映画本編のネタバレがあります。

 

 

中盤で、郵便局強盗を企てるチーム内が険悪になるシーン。(愛しのデボラが勤めるお店に寄った際のあの一色触発さは本当に堪らなかった・・・)

カップルの男の方であるバディが、バッツに嫌味たっぷりに言われる訳ですよ。

「お前は現実から『逃避』している」「盗みはお前の『逃避』でしかない」。

 

これが実はこの物語の本懐だと思っていて、つまりは、誰よりもベイビー自身が何らかから「逃避」し続けるお話なんですよね。

2時間弱で描かれる、「運び屋をやめようとする→やめられない」「計画を破綻させて逃げる→中々逃げ切れない」という話運びはもちろんとして、その前段階として、ベイビーは両親の不仲による事故という悲惨な現実から、どこか「逃避」している。

常に音楽を聴くのは、本当に「耳鳴り防止」のためだけなのか。

本当は、彼は現実と自分の間にどこか壁を作りたかったのではないか。

 

ドクに半ば脅された形とはいえ、犯罪に手を染める彼は、そんな自分に嘘をつくかのように誰に文句を言われても音楽を聴き続ける。

一種の麻薬のような「現実逃避」でもあり、また質の悪いことに、それがよりにもよって「音楽」なので、誰よりも彼自身がそれをどこか高尚な嗜好のようにも捉え、現実(他者)を心の底で少し下に見ている。(言わずもがな里親は例外)

だから常に冷めているし、イヤホンを外さないし、勝手に録音した他者の音声をサンプリングしちゃったりする。

あのイヤホンから流れる音楽が、彼の「逃避」の手段であり、運び屋をやっている自分を無理やりにでも正当化する心の拠り所だったのかもしれない。

 

そんなベイビーが、イヤホンを「共に聴く」相手と出会うことで、物語は転がり始める。

 

彼の「逃避」を理解してくれるかもしれない、同じようにどこかあてもなく永遠とドライブし続けたいと願い合う相手。「逃避」を分かち合えるかもしれない相手。

デボラも、一気にベイビーと恋に落ちて全てを投げ出しても良いと決断できるくらいには、現実からの「逃避」を胸に秘めていた。

だからこそ彼らは惹かれ合い、浅い月日の付き合いながら駆け落ち紛いの約束までしてしまう。

 

ベイビーの「逃避」による「自己正当化」の担い手が自分だけで無くなった時に、彼は次第に自分に足枷が嵌められていたことに気付いていく。

 

現実から逃げてきた青年は、その逃げた先で浸っていた現実から、今度は本当に逃げられなくなっていく。どうしようもなく、追いつめられていく。

執拗なまでに、彼が逃げること・救われることを、物語が許さない。

そんな、彼の人生そのものの逃避行に重ね合わせるからこそ「追手から逃げるカーチェイス」が一層スリリングに感じられてくるのだ。

"本当は" 彼は警察から逃げていたのではないかもしれない、と。

 

そんなベイビーは、「母のテープ」という「逃避」の手段にどうしようもなく固執し、盗んだ車からは音楽が流れないとエンジンすら踏み出せない。

彼にとっての「逃避」手段でもあった「運転」は「音楽」と完全に同期されてしまっている、その虚しさ(心の拠り所の少なさ)に泣けてくる。

 

そうして、逃げて逃げて逃げた先で、彼はついに「助手席」に乗るのだ。

しかも、自分が流したのではない、他人が流した「音楽」を聴きながら。

「逃避」の手段であった「運転」や「音楽」を全て他者に委ねたまま、彼は助手席で放心しながら過ぎていく風景を眺め、木漏れ日を浴びる。

自分が現実から逃げていたことを悟り、また、逃げ切れないことも悟る。

そして、待ち構えていた警察相手に抵抗することなく両手を上げる。

 

ノンストップで走ってきたカーチェイスシーンに対し、このデボラの運転する車の動きのなんと緩やかなことか。

この「流す」ような運転、そして、そこに流れる母の声。

このシーンで、ベイビーの中にあった張り詰めた糸が綺麗に途切れたような感じで、もう感無量な訳ですね。

観ている側としても、彼が大人しく捕まることを受け入れる流れに納得感がある。

彼はもう、本質的に「逃避」する必要が無くなったのだから。

 

Baby Driver (Music From The Motion Picture)

 

つまり、「音楽」や「カーチェイス」は彼の「逃避」の手段や象徴として、「犯罪」は逃げられない現実、「恋愛」は最終的に「逃避」から救ってくれた契機として、一見バラバラでバラエティ豊かに感じた要素の数々が最後にスッ・・・ と一本に繋がるのが綺麗なんですよ。

 

前述の音楽を使った演出によって、観る側はベイビー自身と自分を深く「同期」させている訳で、まるでどこか自分自身が「救われた」かのような錯覚を持ってエンドロールを迎える。

この高い満足感が、「あ~~良い映画を観た~~」という感想に浸らせてくれる。

 

『ベイビー・ドライバー』、文句なしに傑作だったと思います。

今年は本当に好きな映画との出会いが多くて、楽しいなあ。嬉しい限り。

 

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